Masuk──2022年5月20日金曜日
いよいよ、入籍日当日、そして、ヒロさんの誕生日だ。 とりあえず、岡本さんに対しては、今のところ何の接触もないので、ヒロさんにお任せすることにした。 朝から通常出勤の日だ。 今日、入籍したら、ヒロさんは皆んなに公表する! と言うので、来週からは一緒に出勤するつもりだ。 なので、別々に出勤するのは今日が最後。 とは言え、名古屋転勤まであと9日。 土日を挟むので一緒に出勤出来るのは、あと7日間だけ。やはり寂しくなってきた。 入籍する喜びと、離れ離れになる寂しさとが、共存している。 「おはようございます」 「ひまり! おはよう」と言うヒロさん。 いつもと変わらない。 私も笑顔で「おはようございます」と挨拶する。 しかし、この男だけは見逃さない! 「おはよう」 「おは、よう〜〜」 山田だ。 「え、何? その言い方!」 「えーっと、もしかして、もしかしてなんだけど」 「うん、何?」 「今日って特別な日だよね?」 「怖っ!」と思わず言ってしまった。 すると、「だってさあ、誕生日でしょう?」 ──あ、そっちか 「うん、そうだね〜」とニコニコしてみる。 「何するの?」と山田に聞かれる。 「何って何?」 「どこかで外食するとか?」と言うので、 「あ〜それは、ないかなあ〜」と言うと、 「チッ、手作りでおもてなしかよ、羨ましい!」と言われた。 「ま、そんなところかなあ〜ウフッ」と笑うと、 「あ〜良翌日の水曜日、 私は午後からプロジェクトチームの定例会議の日だった。 約束通り、朝からボディーガード付き生活が始まっている。 今日は、中村さんの弟さんの日だ。 いつものように会議室に行ってチームの女性メンバー5名でお話をする。 弟さんは、また、部屋の1番後ろに立ってくれている。参観日スタイルもそろそろ見慣れて来た。 私たちの女子チーム①は、この数回の会議で、女性社員の方々に不安に思っていること、会社に対して改善して欲しいこと、というアンケートを取ることにした。 しかし、忙しいからか、それとも面倒だからか全員分の回収は出来ていない。 もしかすると、言いたくても言えない状況だったりすることもあるのではないかと思い、目指せアンケート全員回収! と題して、全国に10箇所ある支店や事業所に手分けして行き、意見を聞きに行くことになった。 そして、その話をしていると、女子チーム②の方々もアンケートを実施したい! とのことで、ならば協力し合って、1人1ヶ所まとめる事で済むようにしようということになった。 実際には、2人1組なので、2箇所へ行くことになるが効率は良くなった。 会社側からは、出張することも経費負担もOKをいただいているので、必要経費は、好きに使って良いと言われているようだ。 ただし、安全面を考慮して2人1組での行動が原則。 そして、海外に関しては、今のところNOだそうだ。治安の良くない土地へは、行かせられないということだ。 とりあえず、海外については、回線を繋いでいただいて、聴き取り調査をさせていただくことに留まった。 「仕方がない! アンケート国内全員回収! にしましょう!」と決まった。 「「「「はい」」」」 私たちのチームのリーダーは、お姉様なのだ。 なので、私は楽しく参加出来ている。
中村さんに車でマンションまで送ってもらっている間に、早速ヒロさんから、メッセージが届いていた。 〈写真見たよ〜〉と、私は嬉しくなってすぐに、 〈どうだった?〉と送ると、 〈しばらくは、コレで頑張れそう!〉と返って来たので思わず笑った。 「ふふ」 可愛い笑顔の写真や変顔、そして、セクシーな写真も撮っておいてあげたからだ。 〈今夜もひまりを思い出すよ〉と送って来たので、 〈それは、どういう意味の?〉と送ると、 ラブラブなクマちゃんカップルのスタンプが送られて来たので、 〈いやらしい〜〉と送ると、 〈夫になんてことを!〉と泣き顔のスタンプを送って来た。 「ふふ」 仕方がないから、 〈ごめんね〉チュッのキス顔写真を送ってあげた。 〈ありがとう頑張れる!〉と返って来た。 こうしていつでもやり取りが出来る。 私たちの大切なツールだと思う。 〈気をつけてね〉 〈うん、蟻に踏まれないように気をつけるよ〉と来た。 「ふふっ」 〈私も象を踏まないように気をつけるね〉と、 変な会話をする。 コレが私たちだから良いのだ。 そして、マンションに到着したので中村さんにお礼を言った。 「明日の朝もお迎えに参ります」と、 そうだった明日からは車通勤だ。 「よろしくお願いします」と、言うと中村さんは、私がエレベーターに乗るのを見届けてから、帰られる。 1人エレベーターに乗り10階を押して、部屋まで上がる。いつも先に帰っていたのだから、何も変わらないはずなのに、それは、後からヒロさんが帰って来てくれると思って
昨日は、毎日一緒に居られる最後の日だった。 朝から電車で一緒に出勤して…… それも、もうしばらくは出来ない。 入籍してから、たった1週間しか一緒に通勤出来なかった。 ──2年お預けか…… もう誰にも遠慮することがなくなったのに…… 夕方ヒロさんは、現場から早く会社に戻って来てくれたので、帰りも一緒に帰ることが出来た。 そして、最後の夜を一緒に過ごした。 「明日から1人か……」とポツリと言ってしまった。 そのせいで泣きそうになったので、ヒロさんに抱きついて我慢した。 なのに、ヒロさんは、 「ひまり、我慢しなくて良いから」と、私がずっと泣かないように我慢してるのを分かってくれていたから、抱きしめてそう言ってくれた。 すると、今まで我慢してたものが一気に込み上げて来て、ついに涙腺が崩壊してしまった。 「ウウウッ、うあ〜〜〜〜んっ、ウウウッ」 ヒロさんは、私をぎゅっと抱きしめながら、ずっと私の背中を摩ってくれていた。 「ごめんな……寂しい思いさせるな」と…… 「ウウウッ、ヒクッヒクッ」と、子どものように、しゃくり上げながら泣いてしまった。 もちろんヒロさんのせいではない。 一緒に行かないと、自分で決めたことだし…… 分かっている。でも、抑えることが出来なかった。 こんなにも涙って流れるものなのかと思うほど、次から次へと溢れ出ては流れた。 「あ〜離れたくないなあ〜」と言うヒロさん。 分かっていても、出てしまう言葉。 ヒロさんも我慢しているのだ。 「ウウウッ」その言葉に、また泣いてしまう。 「我
夕方、東京駅に到着すると、中村さんが待っていてくれた。 「え?」 「お疲れ様でした」と車で迎えに来てくれたようだ。 私は、知らなかった。 「中村さん、ありがとう」とヒロさん。 「ありがとうございます」と私も言う。 「お願いしてたの?」 「うん」と笑っている。 「毎回戻られる時は、東京駅までお迎えにあがりますので、名古屋へご出発の時も送迎させていただきます」と中村さん。 「ありがとうございます」 東京駅から車で30分程だ。 送っていただき、中村さんにお礼を言った。 「ありがとうございました」 「ありがとう! 明日は、ひまりと出勤して一緒に帰るから大丈夫です。明後日からお願い出来ますか?」と言うヒロさん。 「かしこまりました」 その言葉に、鼻がツ〜ンとして、危なかった。 ヒロさんが東京最後の日だ。 明後日の朝、車で一緒に送ってもらう。 私が慣れる為、車での送迎の練習だ。 午前中で引き継ぎと挨拶を終えると、ヒロさんは名古屋へ行ってしまう。 なので、私も半休を取って一緒に東京駅まで中村さんに送ってもらうことにした。 刻一刻と迫っている。 今、泣いちゃダメだ。 「ありがとうございました、よろしくお願いします」と2人でマンションの中へ入る。 明らかに、私が落ち込んでいるのを察するヒロさん。 そう言えば、山田に『お前、分かりやすいなあ』といつも言われているから、全部顔に出てしまっているのだろう。 なので、敢えて私は、にこやかに、 「今日の晩ご飯は何にする?」とヒロさんに聞く。
翌朝、ヒロさんに朝ご飯の練習をしてもらう。 1人の時は、パンとコーヒーで良いと言うので、 大好きなコーヒーをいつものように、持って来たコーヒーメーカーで淹れてもらう。 「うん、コレは完璧!」 食パンを冷凍庫から出して、トーストする。 バターやジャムは、お好みで。2人共バターにした。 今朝は、私が居るのでスクランブルエッグとウインナーを焼いた。 「うん、美味い!」 「コレなら出来るんじゃない?」 「うん、出来るかも」 時間が無ければパンとコーヒーだけでも良い。 そう言えば、ヒロさんは実家暮らしから、一人暮らしをすると言っていたが、いきなり私と同棲を始めたのだから、一人暮らしは本当に初めてだ。 ──なんだか私の方が心配になって来た。 まるで親心のようだ。 そして、帰り支度をして、一旦車で水族館まで向かった。 30分もかからずに到着。 水族館は、久しぶりだ! 家族と行った以来だ。なので、デートで水族館に来るのは初めてだ。 ヒロさんは、スッとさりげなく手を繋いでくれる。 それだけで嬉しい。 ペンギンが何とも可愛い。よちよち歩いている。 「可愛い〜」と癒される。 「うん、可愛いなあ」と2人ともニコニコしながら見ている。 すると、 いきなり飛び込んで泳いだペンギンは、とても速い。 「速っ! 凄っ!」 「速いなあ」 「うん、ペンギンってこんなに速かったんだ」と驚いた。 驚く私を見てヒロさんが微笑んでいる。 そして、クラゲがふわふわ泳いでいるのを見ていると、とても癒される。 「う
まさか自分がこんなにも、独占欲が強くて、積極的に、こんなことをするようになるなんて思わなかった。 ヒロさんは、遠くから見てた憧れの推しだったのに。 今じゃ、愛し過ぎて誰にも触れて欲しくないと思える大切な男。 もう結婚して、夫になったのだから、とも思うが、 やっぱり離れて暮らすという障害によって、つい考えすぎてしまう。 今の時代『それでも良い』と言い寄る女も居ないとも限らないから…… まだ、起こってもいないことを考えて心配してもしょうがないのだけれど、私の悪い癖だな。 さほどモテそうもない夫だったら、安心出来たのかもしれないが、4年早く入社しただけで、両手で足りないような告白を受けている夫に、不安がないわけがない。 「ひまり、どうした?」と聞かれて、 「絶対絶対絶対、浮気しちゃイヤだからね!」と言うと、 「ふふ、しないよ! 絶対絶対絶対!」と笑っている。 「あ、笑ってる」と言うと、 「いや、ひまりの言い方が可愛いかったから」と、目を細める。 「もう〜! 自覚ゼロ! 危機感がない!」と怒ると、余計に笑っている。 「そっくりそのままお返しします」と言うヒロさん。 「え?」と私が驚いた顔をすると、 「ほ〜ら、ひまりこそ」と笑っている。 「何のこと?」と聞くと、 「中村兄弟は、俺が雇ったボディーガードだからな」 「うん」 「逐一報告してくれてるから」と言う。 そりゃあそうだよねと思った。 「岡本さんのこと?」と聞くと、 「うん。卑猥な言葉を言われたんだろ?」と言われて、 「あ、うん……」と答えた。 「な! ボディーガード頼んで良かっただろ?」と。